100回失敗しても成功できる禁煙術―20年30本男がきっぱりやめられた理由
約20年間、毎日30本。
ニコチン10㎎のタバコを、当たり前のように肺に入れ続けて生きていました。朝目覚めたら、即タバコ。布団から起き上がるのと同時にタバコを咥え、流れるように火をつけていたものです。まったく自慢になりませんが。
禁煙は100回以上チャレンジし、全て失敗。長く続いても4~5日くらいでしたね。そんな自分でも、2010年10月1日を境にピタッとやめることが出来たのです。格好いい理由?ありません。正直に言えば――お金が無かったんです。
それでもタバコを止められた私の勝利です。あれから15年、1本も吸ってませんし、今更吸いたいとも思いません。この記事は、私の等身大の体験を、少しのユーモアと具体的なコツでまとめたものです。医療的なアドバイス、とはいきませんが、どこか一行でも読者様のお役に立てれば幸いです。
20年間の喫煙生活と100回の失敗
ニコチン10mg×30本がデフォルトだった
私が初めてタバコを吸ったのは平成初頭のことでした。当時は、男たるものタバコを吸うのが当たり前という、令和の今からは想像も出来ない時代でした。なので何も考えることなく、最初の1本目を口にしました。
吸っていたのは、今は無きマイル〇セブン10㎎。まさか20年の付き合いになるとは思いませんでしたが、2日で3箱、1日30本を毎日吸い続けたのです。大学では講義の前に1本、就職してからは仕事の切れ目に1本、食後に2本…まさにタバコを中心に生活が回る…そんな状態でした。
100回以上、禁煙しては挫折した
とはいえ、時代が進むごとに「タバコ=カッコ悪い」という雰囲気が少しずつ出てまいります。新幹線、特急、飲食店、少しずつ喫煙者の肩身が狭くなってくるのを感じ、禁煙にチャレンジするようになりました。
禁煙パイポやガムや飴、または単純に根性で、はては灰皿やライターをすべて処分したり、終いには正月に家族や友達に宣言してみたり、様々な手段をもって禁煙をスタートしたものです。ところがほとんどのチャレンジが数時間でアウト、長くても4~5日で挫折してしまう体たらく。内心、自分は禁煙なんて無理なんだろうなと諦めの気持ちさえ持っていました。
「今回は本気」でも続かない理由
「タバコをやめてくれないなら分かれる」、当時お付き合いしていた女性にこうまで言われても止められなかった自分。それだけ禁煙っていうのは難しいんです。
この記事を読まれている方ならご存じと思いますが、タバコをやめられないのは病気です。ニコチン依存症という立派な病気だからこそ、病院に禁煙外来も設置されてますし、治療には健康保険が適用されるのです。とはいえ当時、禁煙外来なんてウチの近辺にはまだまだ存在せず、自分の周囲では病院に行って禁煙という空気感は存在しませんでした。
少しずつ値段が上がり続けるタバコと、これは一生付き合うしかないのかな?と諦めかけたとき、転機が訪れたのです。
成功のきっかけは“お金がなかった”こと
2010年初頭、財布が先に音を上げた
肺よりも先に、財布が音を上げました。結婚して子供が生まれて、これからどんどんお金がかかるぞ!という矢先、長年勤務した会社を去ることになってしまいました。退職金ももらえずに、です。わずかな貯金はすぐに底をつき、転職先の給料が激安だったこともあって、我が家はあっという間に貧乏家庭に転落しました。
そんな中、2010年10月のタバコ大型値上げが迫ってきたのです。
2010年10月 大型値上げの秋
2010年10月1日、私が愛飲していたマイルド〇ブンは300円から410円という、未曽有の大幅値上げを断行しました。現行のメビ〇スの価格が580円であることを考えれば可愛いものですが、当時としては驚天動地の未知の価格帯でした。1日30本吸うなら、1日615円、30日で18,450円という天文学的予算が必要なのです。
とてもじゃありませんが、困窮した我が家の家計には荷が重すぎます。選択の余地はありません。2010年10月1日は、喫煙者としての自分の死刑執行日に決まりました。
禁煙予算は1,000円札1枚のみ
禁煙を始めなければならないのですが、死刑執行日2010年10月1日を目前にして、私の財布には1,000円札1枚しかありません。この予算だけで、禁煙を絶対に成功させなければならないのです。そんな中、ホームセンターで私が購入したのは、電子タバコでした。
現在のような進化した電子タバコではありません。咥えて吸い込むと、先端が赤く光って水蒸気の煙を吐き出すことが出来るだけ、というシンプルなものでした。香りもほとんど無かったような気がします。確か500回くらい吸えたのかな?替えのカートリッジが3個くらいついてましたが、スペアを買う予算はありません。これだけで止めるしかないのです。
私とタバコの戦いが、はじまりました。
「あと1時間我慢」を「明日まで我慢」に変えた瞬間
初期の最大の敵=“いま吸いたい”
禁煙1〜3日は、頭の中が常時喫煙会議。「一本だけ委員会」が採決を迫ってきます。ニコチン切れからくる頭痛もあいまって、もうどうにでもなれという気持ちに押し潰されそうでした。
営業職に戻ろうかな?とも思いました。昔、メンタルをやられて退職した営業会社でしたが、月に手取りで40万円くらいは稼げてました。40万あれば、タバコは買える。でも…数字で詰められる地獄には戻りたくない。
喫煙所でタバコを吸う同僚と並んで電子タバコを吸いながら、私は必死に考えました。電子タバコもすぐにカートリッジが無くなって吸えなくなる。何か対策を考えなければ…。
貧乏ゆえに生まれた禁煙メソッド
一本おばけに襲われつつも、ジリジリと無くなっていく電子タバコのカートリッジ、追加投資が不可能な状態で私が編み出したメソッドは、貧乏ゆえに誕生した2本柱でした。
- 酒はタバコの最高のお友達!ならば飲むな作戦
- 起きてるから吸いたいのだ!ならば寝てしまえ作戦
当時の私は、毎晩安い酒での晩酌を欠かすことが出来ませんでした。貧しさから来るうっぷんを酒にぶつけてたんですね。すると当たり前ですが口寂しくなってきます。経験者ならばご理解頂けると思いますが、酒とタバコの相性は抜群です。なので、酒自体をやめました。しかも副産物として酒代を浮かせることも出来て一石二鳥です。
さらに当時は子供が幼く、親が寝かしつけないとならない状況でした。そこで酒をやめて暇になった自分は積極的に寝かしつけを買って出て、そのまま子供と一緒に寝てしまう作戦を決行したのです。睡眠中にタバコを欲しがる人は世界中探しても存在しません。寝てしまうことで、一時的にせよ吸いたい欲求から逃れることに成功しました。
気が付いたら明日まで頑張ろうと考える自分がいた
禁煙という試合に勝つパターンは、おそらくワンサイドゲームというのは無いのだろうな、と個人的には思います。ワンサイドゲームの試合があるとすれば、それは100%負け試合でしょう。長年吸ったタバコを止めるのに、全く苦しまずにサラッと止める…ワンサイドゲームで勝つというのはありえません。
禁煙という試合に勝つパターンは、泥試合しかありません。ニコチン依存の離脱症状により暴れ狂う自分の脳と、泥にまみれながら、ただただ我慢をし続けるしか無いのです。自分は長くとも1時間とおかずにタバコを吸ってきました。なので、最初はとにかく1時間吸わないで頑張ろう。そう自分に言い聞かせ、時間をやり過ごしていました。
それがある日、開始一週間くらいのタイミングでしたでしょうか。「何とか明日まで頑張ろう」、そう考え始めたことに気付きました。あの瞬間の驚きと感動は、今も忘れられません。20年間毎日30本吸ってきた人間が、頑張れば翌日まで吸わずにいられる、そう思えたのです。
震災で実感した『吸わない強み』
2011年3月、福島からタバコが消えた
2010年10月1日に禁煙を開始してから5か月と少し、ニコチンの離脱症状もすっかり去りました。また禁煙開始直後に行った再度の転職により収入も上がったのですが、それで再開した晩酌にも惑わされることもほとんどありませんでした。
そんな中。2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。私は福島県の浜通り地方、原発避難区域の輪から少しだけ離れた場所に住んでいました。自宅に住み続けることはできたものの、震災後にようやく再開したお店には、不要不急の商品は並びませんでした。不要不急の商品、それはもちろんタバコです。
強制的に訪れた客観視
体感ですが、当時は今よりももっと喫煙率が高かったように思います。少なくとも私の周囲は過半数以上が喫煙者でした。職場が運送会社だった、というのは大きな要因だったかもはしれませんが(笑)。まぁとにかく、彼らの騒ぎは大変なものでした。しまいには同僚のタバコを盗む者、買い置きがたくさんある者は高額転売まで始たりと、完全にカオスの状態に陥っていました。
もちろん、ある程度被災地から離れればタバコは買えました。ただ、当時はガソリンスタンドもほとんど動いていなかったので、簡単には遠出出来ない状況でもあったのです。
タバコを求めて阿鼻叫喚の騒ぎを演じる彼らは、まるで地獄の亡者そのものでした。それを高みから俯瞰して眺めたことが、私の禁煙大作戦ファイナルステージとなりました。私は何とつまらなくて恐ろしいものに支配されていたのか。数日手に入らないだけで、大の大人に盗みまで働かせる。止められて本当によかったと、心の底から安堵しました。
私はこうして、完全にタバコと縁を切りました。2025年9月の今も禁煙は継続しており、さすがにタバコへの未練は完全にありません。ここから先は一生喫煙することはないでしょう。タバコとの勝負、私の勝ちです。
これから禁煙に挑むあなたへ
一番大切なのは止める動機のリアリティ
タバコをやめるための近道は、貧乏になることです。と言われても、この記事をご覧のセレブな皆様は困ってしまいますよね。もちろん貧乏にならなくても、禁煙は出来ます。時間に余裕があるなら、禁煙外来に行きましょう。病院に行く暇がないなら、自分で頑張るしかありません。その際に大切になるのが、「動機のリアリティ」です。
貧乏は私のことを、最上級のリアリティをもって禁煙に急き立てました。当たり前ですよね。お金が無ければタバコが買えないんです。リアリティなんてもんじゃありません。もしあなたの禁煙動機が、産まれてくる子供のためなら、自分の中でのイメージに死ぬ思いでリアリティを与えましょう。愛する奥様のお腹をよく見てください。お腹の中の、あなたの子供をよくイメージするんです。あなたの吐いた副流煙で、小さな肺が真っ黒になるのを思い浮かべて下さい。小さな喉が、息をするたびゼイゼイと苦しそうに鳴るのを、本当に音が聞こえるくらいイメージしてください。最後にあなたのタバコのせいで、幼い命の灯が消えるところまで想像できたら、さすがにタバコなんて吸いませんて。
失敗するのがデフォ、100回目で成功すれば勝利です
突然ダークな話をしてしまって申し訳ありません。脳が生み出す依存症モンスターに勝つためには、こちらもタバコを忌避するモンスターを産まなければなりません。〇〇のためにタバコを止める。ならば、止めなかったときに〇〇に起こるバッドな状態を、とにかく大げさにイメージして忌避モンスターを生み出して下さい。依存症モンスターの力は強大です。想像力を最大限に発揮し、ぜひこの戦いに勝利してください。
とはいえ、残念ながらこの戦い、失敗するのがデフォルト。数時間、頑張ったとしても数日で、依存症モンスターにコロリとやられ、喫煙してしまうのが当たり前の結果なんです。いや、そんなこと、あなたなら知ってるし経験済みですよね?20年間、毎日30本吸ってたタバコをやめられた自分でさえ、100回以上の失敗を重ねてきたのは先述の通り。禁煙は難しい。だからこそ、何回だってチャレンジしてください。100回目で成功したら、あなたの勝ちなんですから。