産廃専門運行管理者の現場から見た「物流2024年問題」

「積込中の30分は、実質的には休憩に近い時間。しかし帳票上は“労働”として扱われる」
これは、産廃輸送の現場で日常的に起きている矛盾です。

2024年4月に施行された改善基準告示は、ドライバーの健康と安全を守るための制度です。理念は正しい。しかし現場の実態にそぐわない部分が多く、守ろうとすれば仕事が回らず、回そうとすれば違反になる――そんな板挟みが起きています。

本記事では、営業所所長・運行管理者としての視点から、産廃輸送ならではの拘束時間の実態と、制度と折り合いをつけるための現場の工夫を紹介します。

~おことわり~
この記事は筆者個人の体験をベースに記したものです。会社が変わることで状況が全く異なる可能性もありますので、それを踏まえてお読みください。

産廃輸送の実態――「拘束」と「労働」の境界線

産廃輸送は重機主体、ドライバーは待機が中心

トラック物流は積荷によって、働き方・拘束時間の中身が大きく異なります。私の勤務する運送会社営業所では、廃棄物運搬を専門に扱っています。これは、工場などから排出される産業廃棄物を、中間・最終処分場に運搬するものです。

商品や製品を工場や倉庫で積んで、店舗や物流センターに運搬する。おそらく多くの方がイメージするであろう、こういった物流スタイル。こちらは、我々が携わっている産廃運送とは働き方が大きく異なります。

最大の違いは、積込・荷下ろし。我が社でお世話になっている産廃輸送の現場での積込・荷卸しは、基本的に全て重機で行われます。一般的な物流運搬と異なり、ドライバーが積込・荷卸しのために手を動かすということは、トラブル時などを除き、ほぼ無いのです。

積込・荷下ろし中のドライバーは“待機時間”が大半

上記の通り、産廃の積込・荷下ろしは、フォークリフトやショベルといった重機が行います。ドライバーは誘導や安全確認を担いますが、多くの時間は乗務席での待機となることがほとんどです。

つまり産廃と一般物流では、同じ「拘束時間」でも、体力を消耗する手積みや長時間の荷待ちとは疲労の質がまったく違います。にもかかわらず、現行制度では一律に労働時間へ算入され、休憩扱いにはなりません。ここに現場と制度の大きな齟齬が発生してしまっているのです。

労働基準法によれば、休憩とは「労働から完全に解放された時間」でなければならないとのこと。積込・荷下ろしを自ら行わないとはいえ、トラブル時などにオペレーターや荷主から指示が出る可能性がある状態は「待機」という扱いとなり、「労働時間」にカウントされてしまうのです。

我が社が入る現場では、積込・荷下ろしに30分前後かかる場合がほとんどです。つまり、この時間を「休憩」にカウント出来れば、積込場所と荷下ろし場所をピストンする現場の場合、自動的に運行に「休憩」が組み込めるため、別に休憩時間を取る必要が無くなるのです。現場によっては、1往復余分に運行出来る場合も多いでしょう。これは即ちドライバーの収入に関わってくる問題なのです。

ルール厳格化が賃金に直結する現実

「自動車運転者の労働時間等の改善基準告示」で示されたルールとしては、

  • 430休憩(4時間走行につき30分休憩)
  • 連続運転時間→4時間以内
  • 休息時間11時間以上が基本(9時間を下回らない)
  • 運転時間→2日平均9時間以内

主なところだけでも、こういった内容になっています。

つまりドライバーの給与が上げられないばかりか、ルールを守れば守るほど、低賃金で走らせるしかないのが実情なのです。働き方改革も非常に大切ですが、運送事業全体を十把一絡げにルール設定したことで、下がる必要のないところでも、ドライバーの手取りが減ってしまっているのです。

運送会社の中には、未だに「自動車運転者の労働時間等の改善基準告示」を軽視し、まるで昭和のような配車でトラックを動かしているところも存在するようです。実は我が社の若手ドライバーでも、そういった会社の方が実入りも良いことから、移籍を考える者が出てしまっています。若手ドライバーは我が社でも御多分にもれず非常に貴重な存在です。そんな貴重な人材を守るためにも、我が社ではある取り組みを開始しました。

現場から始めた「積込=休憩」への挑戦

ここまで、現場にそぐわない一律のルール設定により振り回されている状況についてお話してまいりました。とはいえ、これはどこの業界にでも日常的に発生するタイプの問題なのだろうと思います。確実なのは、陰でブツブツと文句を言っていても何も変わらないということ。

我々は廃棄物の引取先企業様と共同でルール作りを行い、積込中に「休憩」を取る仕組みづくりを始めたのです。

積込30分を休憩に変える交渉のリアル

最初にお断りしなければなりませんが、これはあくまで我が社が入っている現場でこそ出来た事例になります。必ずしもこの方法で「休憩」時間を捻出できるわけではありませんので、ご了承下さい。

先述の通り、我が社でメインに入っている産業廃棄物の引取先工場では、重機により平均30分程度の積込が行われています。その30分は基本的に車内で待機になるのですが、ドライバーからのヒアリングで次のようなことが分かりました。

  • 待機とはいえ、積込中に声をかけられることはほぼない
  • トイレに行きたければ自由に行ける状態

積込中に重機オペからドライバーに声掛けされたのは、重機をトラックにぶつけてしまったなど突発的なトラブルが発生した場合に限られているとのこと。そのためドライバーは、構内の利用は原則禁止だが、こっそりスマホを見て時間を潰していたというのです。

積込時間を「休憩」とするための施策

積込中は、たとえ作業を行わなかったとしても待機時間以上にはならず、「休憩」とカウントされることはない。そう申し上げましたが、例外を作ることも不可能ではありません。

ドライバーがトラックから離れ、休憩施設で自由に過ごせる状況。これを積込先同意のうえで準備できるのであれば、「休憩」と見なしても構わない。これは地元のトラック協会にも確認しております。さらに幸いなことに、積込場所のすぐそばにオペレーターさん達の休憩所もあり、工場の了承さえ頂ければ、すぐにでも始められることが分かったのです。

ところが工場の責任者の返事はNO。積込場所オペレーターへヒアリングしたところ、「何かあったときにドライバーさんがすぐそばにいてくれないと不安だ」と言われたというのが理由でした。

顧客との交渉~運行を守るための必須プロセス

本社の上司からは、ここで撤退するよう命令されました。顧客相手に無理な要求をするものではない、仕事自体が無くなったらどうするんだ?と厳しい言葉をもらいました。

ですが、そこで諦めるわけにはいきませんでした。積込時間を休憩時間に変えることが、運行そのものをつつがなく継続していくために必要だったからです。先述のとおり、近くの処分場へのピストン便の場合は1往復分、余分に走れるかどうかが変わります。また遠くの処分場へ運ぶ場合も、処分場までの移動中に休憩を取らなくても良いというのは、常に時間との闘いであるドライバーの心理を非常に楽にしてくれるのです。

私は工場の現場オペレーターと直接話をさせてもらいました。積込場所から休憩場所は目と鼻の先。工場が稼働していても、大きい声を出せば聞こえます。また非常時と言っても、重機とトラックの接触以外には、まず発生しないでしょう。これらのことを丁寧に話し、最終的にはオペレーターさんからも了承を頂くことが出来ました。

まとめ――顧客と共に知恵を出し合い、物流を守る

改善基準告示は、ドライバーを守るために作られた制度です。しかし、産廃輸送の現場には「積込中は静的待機が多い」という特殊な事情があります。これを無視して一律で適用すれば、遵法は不可能であり、現場は疲弊するだけです。

大切なのは、荷主や顧客も含めて「どうすれば守れるか」を一緒に考えることです。物流が止まれば困るのは運送会社だけでなく、顧客も同じ。だからこそ、制度を盾に対立するのではなく、実態を踏まえて知恵を出し合う必要があります。

産廃輸送は、一律ルールにただ従うのではなく、設計と合意で勝ちにいける領域です。休憩を偶然に任せず、仕組みとして組み込み、証跡で守る。その取り組みこそが、これからの物流を安定的に支える道筋になるはずです。

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